■ワコム<6727>のこれまでの業績推移
コロナ禍前の2020年3月期までの売上高推移を見ると、2017年3月期にいったん大きく落ち込んだのは円高に加え、過度な社内ITインフラ投資、製品サイクルの移行等の影響が重なったことが理由である。その後「テクノロジーソリューション事業」の伸びとともに回復したものの、「ブランド製品事業」については縮小傾向をたどり、「ブランド製品事業」のマイナスを「テクノロジーソリューション事業」のプラスでカバーする構造が続いた。2021年3月期にはコロナ禍をきっかけとしてオンライン教育向けを含む巣ごもり需要などを中心に「ブランド製品事業」(特に中低価格帯モデル)が急拡大すると、巣ごもり需要が一巡した2022年3月期も「ブランド製品事業」のプロ向けディスプレイ製品や「テクノロジーソリューション事業」の伸びにより、2期連続で過去最高売上高を更新した。ただ、2023年3月期以降は、インフレなど世界的な経済環境の悪化による急激な消費者センチメントの低下やコロナ特需の落ち着き等により、「ブランド製品事業」(特に中低価格帯モデル)が大きく落ち込む一方、「テクノロジーソリューション事業」の伸びで増収を確保してきた。
損益面では、営業損失となった2017年3月期以降は、積極的な研究開発や新製品開発をこなしながら営業利益率は4%台から6%台で徐々に改善してきた。2021年3月期及び2022年3月期は、増収に伴う収益の押し上げや製品ミックスの改善、販管費の最適化等により2期連続で高い利益率を確保したものの、2023年3月期以降は、「ブランド製品事業」が2期連続でセグメント損失を計上したことにより、全体の利益率も大きく低下した。
財務面では、IT資産の減損損失の計上により大幅な最終損失となった2017年3月期に自己資本比率はいったん低下したが、その後は内部留保の積み増しにより改善傾向にあり、60%に近づいてきた。ただ、2023年3月期以降は自己株式の取得等により低下傾向にある。資本効率を示すROEや事業活動の効率性を示すROICも高水準で推移してきた。2023年3月期は利益水準の落ち込みとともにいったん大きく低下したものの、2024年3月期は改善に向かい、余剰在庫削減の進捗によりキャッシュ・フローも改善した。「テクノロジーソリューション事業」の成長基盤の頑健性が高まってきたことを背景に、バランスシートの資本・負債の最適なリバランスにも目を配ることが可能となった。財務健全性の確保を前提に負債資本倍率(D/Eレシオ)は0.3~0.5倍程度とする負債レバレッジを活用することで、資本効率を意識した事業運営を進める方針を2023年5月時点で開示した。2024年3月期末時点では負債資本倍率が0.4倍弱となっていることからバランスは取れている。今後、在庫を中心とする運転資本の適切なマネジメント、事業利益の創出から生まれるキャッシュ・フローを投資と株主還元へ配分することによって、健全性が毀損されていないかどうかを計る重要な財務指標となるため、併せて注視していく必要がある。
■社会への取り組み
「ライフロング・インク」の提供を通じて、持続可能な社会に寄り添う
同社ではESGや持続可能な社会への取り組みを重視しており、「社会への取り組み」への基本的な考え方や具体的な活動を同社ホームページに開示している。特徴的なのは、同社のテクノロジーをビジョンとして掲げる「ライフロング・インク」と関連付けているところである。人が一生の間に積み重ねていく「書く/描く」体験を支え、未来に伝えていくことを通じて、持続可能な社会に寄り添っていくところに同社の存在意義や価値創造の源泉があると認識している。人々の日々はもちろん、クリエイティブからビジネス、教育の分野まで幅広い「ライフロング・インク」の可能性※を様々なコミュニティのパートナーとともに追求することで、ユーザーとともに同社自身の持続的な成長にもつなげるものと言える。
※ 例えば、教育分野であれば、学習中のペンの動きから生徒個人の学習特性を解析し、個人に合わせた学習環境を提供する「教育向けAIインク」をパートナーとともに開発している。
また、世界各地の拠点で生活する個々の社員とローカルコミュニティとの関わりを大切にするとともに、環境に配慮したオペレーションと商品開発にも取り組む。社会の未来像についても、1社だけでなく、アルスエレクトロニカ※1などのコミュニティとともに提案を続けていく。また、STEAM教育※2や探求型学習※3に対する技術サービスについても社会実装する方針である。
※1 世界的なクリエイティブ機関であるアルスエレクトロニカは、オーストリアを拠点に40年以上にわたり「先端テクノロジーがもたらす新しい創造性と社会の未来像」について提案を続けている。
※2 社会の潮流となりつつあるSTEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)教育を構成するArtの領域で、AI技術を活用してクリエイターの創作活動を可視化することにより創作活動の学びにつなげることが可能となる。
※3 例えば、Z会グループとの協業によりオンライン教育とデジタルペンを組み合わせて生徒個人のインクデータの軌跡をAI技術で解析することにより、論理的な思考能力の育成につなげるサービス提供を行っている。
気候変動への対応についても、環境経営における重要な課題として捉えており、気候変動イニシアティブ(JCI)へ参加し、CO2排出量を年率4%削減(基準年:2014年度)することにより、2030年度に達成すべきCO2排出量目標を公表している。そのなかで、温室効果ガスの削減とCO2排出量(Scope1、2、3)等の環境パフォーマンスの情報公開にも取り組むとともに、気候変動が事業環境に及ぼすリスクや機会の分析を踏まえた事業活動を行っている。また、サプライチェーン全体でのCO2排出量削減につながる行動を、「ワコムサプライヤー行動規範」への賛同と実践を通じて取引先にも要請している。そして、年々増加している水害などの自然災害により企業活動が制限されるリスクに対しては、BCPを策定し対応を進めている。それらを踏まえ、2023年4月13日にはTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明した。また、2024年8月に、2024年3月期の温室効果ガス排出量データ(Scope1、2、3)の信頼性向上を目的として、国際基準に準拠した第三者検証による第三者保証報告書を取得するとともに、同年10月末には、2030年までを目指してグローバルで進めている温室効果ガス排出削減目標について、パリ協定の求める温室効果ガス削減の目標(産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑えるもの)に対して科学的根拠に基づき整合しているとの評価を得た。国際的な気候変動対策イニシアティブの1つSBTi(Science Based Targets initiative)において、SBT短期目標の認定取得が公開されている。
同社は、ESGを中心に統合報告書の要素も一部カバーする冊子として、同社の理念や社員の思い、ユーザーの声などを一連のストーリーとして伝える「Wacom Story Book」※を発行している(創刊号の発行は2023年5月)。
※ 同社が大切にしている価値観の紹介を皮切りに、同社の商品企画や技術開発の軌跡をチームメンバーが語るとともに、様々なコミュニティパートナーやアーティストの声、作品、事例なども掲載している。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)
■Wacom<6727>的业绩发展情况
在新冠疫情之前的2020年3月期的营业收入趋势中,2017年3月期曾大幅下滑,原因是日元升值,过度的公司内部IT基础设施投资,以及产品周期的迁移等影响。虽然之后随着“科技解决方案业务”的增长逐渐恢复,但“品牌产品业务”却呈现出缩小的趋势,“品牌产品业务”的负增量被“科技解决方案业务”的正增量所覆盖。2021年3月期由于新冠疫情的影响,在线教育需求的激增,尤其是中低价位模型的“品牌产品业务”急速扩张。即使在家庭办公需求一轮过去后的2022年3月期,依然由于“品牌产品业务”的专业级苹果-显示屏产品和“科技解决方案业务”的增长,连续两期更新了营业收入的历史最高记录。但自2023年3月期以来,由于全球经济环境恶化导致的消费者情绪急剧下降,以及新冠疫情期间的特殊需求平静等因素,“品牌产品业务”(尤其是中低价位模型)大幅下滑,而“科技解决方案业务”的增长保持了收入的增长。
在损益方面,自2017年3月期营业亏损以来,尽管积极展开了研究开发和新产品开发,营业利润率已从4%逐渐改善至6%。2021年3月期和2022年3月期,受益于营业收入的增加、产品组合的改善及销售管理费用的优化,连续两期保持了高利润率,但2023年3月期之后,由于“品牌产品业务”连续两期记录了部门亏损,整体利润率也大幅下降。
在财务方面,由于IT资产减值损失的计入,2017年3月期出现了大幅的最终亏损,自此后自有资本比率暂时下降,但由于内部留存利润的积累而有所改善,接近60%。然而,2023年3月期以后由于自购股票等因素的影响而呈下降趋势。资本效率的roe及显示业务活动效率的roic也维持在较高水平。虽然2023年3月期的利润水平因下降而大幅降低,但2024年3月期有望改善,并且通过过剩库存减少的进展,现金流也得到了改善。在“科技解决方案业务”的增长基础日益坚实的背景下,资本和负债的优化再平衡也得以关注。以确保财务健康为前提,负债资本倍率(D/E比率)计划利用0.3至0.5倍的负债杠杆来推进以资本效率为导向的业务经营,并在2023年5月时点进行公开。到2024年3月期末,负债资本倍率在0.4倍左右,状况良好。未来通过对以库存为中心的流动资本的适当管理,以及从业务利润中产生的现金流分配到投资和股东回报中,成为确保健康性未受损的重要财务指标,因此需要同步关注。
■对社会的贡献
通过提供“终身墨水”,支持可持续的社会
该公司重视esg及可持续社会的举措,同时在公司官网上公开了对“社会的贡献”的基本思想和具体活动。值得注意的是,将公司的科技与愿景所倡导的“终身墨水”相关联。通过支持人们一生中积累的“书写/绘画”体验,传承到未来,该公司认为其存在的意义和价值创造的源泉在于此。无论是日常生活还是广泛涉及创意、业务、教育等领域,通过与各种社区的伙伴共同追求“终身墨水”的潜力,使得用户与公司的可持续成长相结合。
例如,在教育领域,正在与合作伙伴共同开发从学习过程中笔的运动中解析学生个人学习特性并提供个性化学习环境的“教育专用人工智能墨水”。
此外,我们也重视生活在世界各地的每位员工与当地社区的联系,同时致力于环境友好的经营和商品开发。关于社会的未来蓝图,我们不仅仅依靠一家公司的力量,而是与阿尔斯电子艺术等社区继续提出建议。此外,我们还计划将STEAM教育和探究型学习的技术服务落实到社会中。
作为一个全球性的创意机构,阿尔斯电子艺术(Ars Electronica)在奥地利运营了超过40年,持续提出"先进科技带来的新创造性与社会的未来蓝图"。
在日益成为社会潮流的STEAM(科学、技术、工程、艺术、数学)教育中,通过利用人工智能技术可视化创作者的创作活动,将其与创作活动的学习相连接。
例如,通过与Z会集团的合作,将在线教育与电子笔结合,利用人工智能技术分析学生个人的墨水数据轨迹,以促进逻辑思维能力的培养。
对于应对气候变化,我们将其视为环境管理中的重要课题,参与气候变化倡议(JCI),通过每年削减4%的CO2排放量(基准年份:2014年度),公开2030年度的CO2排放目标。在此过程中,我们也在致力于公布温室气体的削减和CO2排放(范围1、2、3)等环境绩效的信息,并基于对气候变化对商业环境的风险和机会的分析开展业务活动。此外,通过支持和实施"Wacom供应商行为规范",我们还要求交易伙伴采取促进整个供应链CO2排放减少的行动。面对逐年增加的水灾等自然灾害可能限制企业活动的风险,我们正在制定BCP并采取应对措施。基于上述情况,我们在2023年4月13日表明支持TCFD(气候变化相关财务信息披露工作组)的建议。此外,我们将在2024年8月获取依照国际标准进行的第三方验证第三方保证报告,以提升2024年3月期的温室气体排放数据(范围1、2、3)的可靠性,并于同年10月底获得与Paris Agreement要求的温室气体减排目标相一致(将工业革命前的温度升高限制在1.5℃内)的科学基础上的评估。关于国际气候变化行动倡议之一的SBTi(Science Based Targets initiative),短期SBT目标的认证取得已向社会公开。
该公司发布了一本围绕esg为中心,同时覆盖部分综合报告要素的小册子,借此传达公司的理念、员工的心声、用户反馈等,名为"Wacom故事书"(创刊号于2023年5月发布)。
该小册子介绍了公司所重视的价值观,并由团队成员讲述公司的商品企划和技术开发的历程,同时也包含了各种社区合作伙伴和艺术家的声音、作品、案例等。
(撰写:FiSCO客座分析师柴田郁夫)