東レ株式会社(本社:東京都中央区、代表取締役社長:大矢 光雄、以下「東レ」)は、このたび、非破壊X線検査1)の高速化と稼働率向上に貢献する、高耐久な短残光シンチレータパネル2)を開発し2024年6月より国内外向けに販売を開始しました。
非破壊X線検査は、半導体、電子部品、食品など、不良や異物混入などが発生した場合に、社会インフラ停止、自動車事故、健康被害など、大きな社会影響がある製品の品質保証の手段として、多く採用されております。また、①検査装置市場の成長 ②検査対象品種の拡大 ③インライン化による全数検査の採用、と大きく3つの要因により、X線検査装置市場は年率約10%と高い成長が見込まれ、近年では検査数増大に対応するため、高速化のニーズが高まっております。
検査を高速化するには、製品やカメラを高速で動かし、高速撮像する事で1製品当たりの検査時間を短縮しますが、汎用的なGOS:Tb蛍光体3)を用いたシンチレータパネルでは、搬送方向に尾を引くなど不鮮明な画像(図1参照)になる課題がありました。蛍光体の残光4)が短いGOS:Pr蛍光体 5)を採用することで画像鮮明化が行われていますが、GOS:Tb蛍光体に対し輝度が低いという課題がありました。また、非破壊高速X線検査は24時間連続稼働で使用されるケースが多く、X線照射によるシンチレータパネルの輝度劣化が進み、X線検出器の交換サイクルが短くなる課題もありました。
今回、東レが独自開発した高反射率フィルムをベースフィルムに採用する事でシンチレータパネルの初期輝度6)を最大21%向上させる事に成功しました(表1参照)。また、輝度劣化が進む原因を解明し対策する事で、当社加速試験後の輝度7)では従来技術対比、最大30%改善させる事に成功しました(グラフ1参照)。
この高輝度化と輝度劣化を抑制する2つの技術を融合させる事で、高速非破壊X線検査用に高耐久なシンチレータパネルを実現し、製品価値としてお客様に認められた事で販売を開始いたしました。
表1 当社シンチレータパネル 初期輝度の比較
当社シンチレータでの比較 | 従来技術 | 新技術 | 従来比 |
蛍光体 | GOS:Pr | ⇐ | - |
初期輝度 @400μm厚 | 100% | 121% | 21%向上 |
- 初期輝度:当社所有装置にて管電圧70kV/付加フィルター無し条件での測定結果。従来技術の初期輝度を100%とした時の相対値で記載。
- 加速試験後の輝度:当社所有装置にて初期輝度測定後、60kVで累積1.1MGyをX線照射後、50日後の輝度値。両技術ともに初期輝度100%とした時の相対値で記載。
グラフ1 当社シンチレータパネルの加速試験による輝度変化
図1 X線インライン検査の高速搬送時の撮像画像(東レで取得)
電子部品を搬送速度:90m/分で測定時の撮像画像
東レは、お客様のニーズに応えるX線シンチレータパネルの新製品を開発、提供することで本分野でのリーディングポジションを維持すると共に、企業理念である「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」を実現していくため、社会を本質的に変える革新素材の創出に取組み続けてまいります。
以 上
<語句説明>
1) 非破壊X線検査
X線を照射し透過する量の違いを検出する事で被写体を分解する事なく内部の欠けや傷の有無を検査する方法。
2) 短残光シンチレータパネル
X線よって励起され、蛍光(シンチレーション)発光する物質であるシンチレータの中でX線照射を停止した後に残る発光が一定量になるまでの時間が短いシンチレータをパネル状にしたもの。
3) GOS:Tb
テルビウムドープ酸硫化ガドリニウム。X線を吸収した後に、可視光の光に変えて放出する蛍光体の一種で、汎用的に使われる。
4) 残光
X線照射を停止した後に残る発光。X線照射停止後、輝度が1/e(ネイピア数)となるまでの時間であるDecay Timeと、一定時間後の残光量(残光輝度/初期輝度)が指標とされる。
5) GOS:Pr
プラセオジムドープ酸硫化ガドリニウム。X線を吸収した後に、別の波長の光に変えて放出する蛍光体の一種で、GOS:Tbより残光が短い。
6) 初期輝度
厚み400μmの弊社製品を当社所有装置にて管電圧70kV/付加フィルター無し条件での測定結果。従来技術を100%とした時の相対値で記載。
7) 加速試験後の輝度
当社所有装置にて初期輝度測定後、60kVで累積1.1MGyをX線照射した後、50日後の輝度値。初期輝度100%とし相対値との差異を記載。