アップルの決算を見る上で注目すべき4つのポイント
米国株式市場最大の時価総額を誇るアップルの動向には、マーケット参加者からの熱い視線が常に注がれています。なかでも、アップルの決算発表というのは投資家にとっては見逃すことができない一大イベントです。
日本時間では8月4日の早朝、アップルの決算が発表されました!(決算カレンダー上では現地時間ベースの8月3日の取引終了後)
今年の株価パフォーマンスを振り返ってみると、アップルは約50%上昇し、歴史的な高値を更新してきました。
ビッグテック各社が、良好な決算を次々と発表していくなか、アップルはどのような決算を発表したのでしょうか?
アップルのQ3決算を分析していきましょう!
発表されたQ3決算報告書によると、売上高はわずかに減少し、純利益はわずかに増加しました。これは、アップルの売上高は3四半期連続で小幅に減少したことを意味します。
アップルのQ3決算に対する事前の市場予想は、そこまで強気ではなかったということも折り込まれて、決算を受けた短期的な株価は、時間外で約2%とわずかに下落しました。
前回、【学ぶ】ではテスラの決算報告書の見方で3つのポイントをお話しました。今回はアップルの決算を見る上でのポイントをお伝えしていきます。
アップルは米国株式市場で最大の時価総額を誇る安定した存在です。
決算発表の結果は、短期的な株価には影響する可能性があります。しかし、アップルのような時価総額が大きい成熟した企業にとっては、長期的なトレンドへの影響はそこまで大きくないと認識されています。
したがって、私たちは長期的な観点からいくつかの重要ポイントに注意して決算の結果を読み解いていくのが良さそうです。
1.収益の安定性
長期的な企業の発展の裏付けは、収益の安定性にあります。
まず、企業の収益の源は何であるかを明確にしたうえで、安定しているかどうかを注視する必要があります。収益が安定してさえいれば、全体としての業績も容易には悪くならないと考えられるため、株価の下支え要因となります。
売上構成を見ましょう。アップルの収益の源は、間違いなくiPhone部門であることは明らかです。
・総売上高の半分以上を占めているのはiPhone部門である
・総売上高の約20%を占めるサービス部門も、ユーザーやアプリストアから派生している
・ウェアラブル部門も、スマホ利用者に浸透している
iPhone部門の収益の安定性を評価するには、スマホ市場シェアの推移の傾向を見ます。
市場シェアが拡大し続ける場合、収益は増加していることを示します。逆に市場シェアが減少する場合、収益を揺らがせる何かが生じていることを意味します。
アプリ内のビジネスデータから、スマホ市場シェアの動向を確認できます。
各四半期での変化が大きいことが分かりますが、これはiPhoneの発売時期に関係していて、販売には季節変動があるためです。
iPhone売上のかき入れ時である四半期を基準に比較すると、2019年Q4から2022年Q4までの間、スマホ市場シェアは19%から23%に増加し、継続的に良くなっています。
ちなみに、アップルの売上は、クリスマス商戦のあるQ1(10-12月)に大きくなる傾向があり、それを見据えて新製品の市場投入をQ4である9月頃に行っていることは知っておいてください。
2.競争優位性から生じる総利益率(粗利率)の高さ
企業の長期的な競争力というのは、どの程度高い優位性を持っているのかによって決まります。競争優位性が高ければ高いほど、ビジネスを永続的に維持することが容易になります。
市場参加者の多くは、アップルは最も競争優位性が高い会社の1つであると認識しています。それは、自社開発の半導体における技術の優位性、ソフトウェアとハードウェアが一体化されたiOSエコシステム、工場を持たないファブレス経営から生じるものです。
企業の競争優位性は、決算報告書においては総利益率で見ることができます。
なぜなら、競争優位性が強いほど、顧客との交渉力も強く、総利益率(粗利率)も高くなるためです。
iPhoneを代表とするハードウェア事業の総利益率(粗利率)は、近年においては大方35%前後で推移しており、高利益率のソフトウェアサービスを加えた総利益率(粗利率)は約40%です。
機関の統計によると、2022年にはiPhoneはスマホ市場の18%を占めており、なんと業界全体の85%をの営業利益を獲得していました。平たく言うと、非常に儲かっていたのです。
競争優位性の考察では、総利益率(粗利率)の水準を継続的に注視すると良いでしょう。
アップルにおいては、総利益率が40%前後、もしくはそれ以上に維持されている限り、粗利益は比較的安定していると言えるのではないでしょうか。
そうでない場合は、粗利益が減少していると認識でき、株価への売り圧力となってくる可能性があります。
Q3での粗利益率は約44.5%で、小幅に上昇しています。つまり、アップルの競争優位性は失われていないと解釈することができそうです。
3.既存・新規の成長エンジン
アップルにとって、持続的な収益が「守り」であるとすれば、「攻め」は未来を見据えた成長です。
既存のハードウェア事業において、アップルの成長ポテンシャルというのは比較的限定されています。例えば、iPhone部門では過去数年にわたって売上は安定を保っています。
しかし逆に言うと今後、1人で2台3台とスマホを持つことが主流にはなりそうもないようにiPhoneの売上がいきなり2倍になるということは考えづらいですよね。
したがって、成長エンジンは主にサービス部門の売上によるものであると言えます。サービス部門の売上にはアプリストアからの手数料収入、Googleからの広告収入、定期購読サービス収入などが含まれます。
長期間にわたってサービス部門の売上は10%以上を維持しており、一時期は20%を超えていました。総売上高に占める比率も10%未満から、20%にまで増加してきたのです。
しかしながら、本年度のサービス部門の売上高成長率は著しく減速していました。Q1では前年同期比わずかに6.4%しか増加せず、さらにQ2では5.5%にまで落ち込みました。注視されていた、Q3のサービス部門の売上高成長率は果たしてどうでしたでしょうか?
Q3の決算報告書によると、アップルのサービス部門の売上は約212.1億ドルで、成長率は前年同期比8.2%増という結果でした。
既存の成長エンジンに加えて、将来の成長期待は、新商品とその成長によってもたらされます。例えば、MR(複合現実)分野で新しく発売されたヘッドセット「Vision Pro」や、計画中のスマートカー事業が含まれます。
ただし、ヘッドセットは来年になってから本格的に市場投入される予定であり、その出荷状況を注視し、新たなフラッグシップ製品となる可能性があるかどうかを見極める必要があります。また、スマートカーの大規模商業化についてはまだ先行きが具体的には見えていません。
新規の成長エンジンに関しては、今後も引き続き動向を見守る必要があります。
4.自社株買いと配当金
アップルの株主還元の姿勢は投資家にとって非常に魅力的です。銘柄選定の際は、業績、企業の競争力という点だけでなく、株主に対する還元度にも注目してください。株主還元の姿勢は、自社株の買いと配当をみることで測ることができます。
企業が自社株買いを行うことで、1株あたり利益(EPS)を増やすことができ、それはつまりROE(自己資本利益率)の向上につながります。ひいては、マーケットでの流動性をもたらすことになるのです。
このようなメリットから、自社株買いは株価の上昇に非常に積極的な役割を果たします。配当は、実際に稼ぎ出した利益を株主に分配することです。自社株買いと配当金の分配は、株主の投資に対するフィードバックの形態なのです。
決算報告書で自社株買いと配当について確認するには、キャッシュフローを見るのが最も簡単な方法です。キャッシュフローのうち、財務活動によるキャッシュフロー部分を見てみると、毎年の自社株買いの総額は上昇傾向にあり(自己株式の取得による支出=普通株発行/買戻純額)、2022年には894億ドルに達しています。過去5年間の累計自社株買いは、4000億ドル近くにも及び、米国株式市場で右に出る者はいません。
配当に関しては、過去5年間においての年次配当額はわずかに上昇し、累計配当額は5年間で700億ドルを超えています。
自社株買いと配当金の分配を継続的に行っているため、アップルの純資産は比較的低水準を維持していますが、ROEは非常に高く、2022年度では175.5%に達しました。
チャーリー・マンガー氏は、長期的に見て株式収益率は企業のROEと一致すると述べています。
高いROEは、投資家の魅力を高める要因の1つです。しかしこの背後には、継続的な自社株買いと配当金の分配が大きな役割を果たしていることがお分かりになるでしょう。
したがって、決算報告では、各四半期の自社株買いと配当の状況に注目することができるといえます。これらが安定して上昇傾向にある場合、株価にとっては好材料であり、ある程度の長期的なサポートとなり得ます。
Q3の決算発表の結果としては、これらの項目に関して特に不利な変化は見られず、株式の自己買い戻しや配当に関しては良好な水準を維持しています。
アップルの決算書を見るポイントをまとめ
・収益の安定性はiPhone部門の収益と市場シェアの動向から見る
→収益と市場シェアが不安定になると、長期的な株価に悪影響を与えることになる
・競争優位性から生じる総利益率(粗利益)の高さは40%前後であるかを見る
→粗利益率に翳りが出てくると、株価に売り圧力がかかる可能性がある(Q3の粗利益率は約44.5%)
・既存・新規の成長エンジンの動向を見る
→サービス部門の成長は鈍化傾向、今後の成長エンジンであるMRビジネスとスマートカーの動向を注視
・自社株買いと配当金はどうなるかを見る
→決算発表時に自社株買いと増配があれば、株価的にはなお良しの好材料(Q3では大きな変化はなし)
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