ウォルマートの決算はROEの観点から長期目線で読む!
株価の上昇には、収益の成長ありきと基本的には考えてよいでしょう。しかしながら、米国株式市場の有名どころには純利益の長期的な増加を伴わなくとも株価上昇をしている企業が存在します。とても不思議に思う人もいるのではないでしょうか?
ウォルマートはそのような企業の1つです。ウォルマートの純利益は、2006年度から2023年度までの間、ほとんど増加しておらず、むしろ近年では減少しています。しかし、この期間中、ウォルマートの株価は3倍に上昇し、S&P500のパフォーマンスを2.5倍上回り、非常に安定した長期的な上昇トレンドを形成してきました。
純利益の発表内容内容が予想を大きく超えなかったり、予想を下回っていたとしてもウォルマートの株価が上昇する可能性はあるのでしょうか? その答えは決算報告書のデータに隠されています。 ウォルマートの決算報告で注目すべき重要ポイントは何でしょうか? ウォルマートの株価の長期トレンドに影響を与える要因は何でしょう? あるいは短期的な株価に影響を与える要因はどうでしょうか?
ウォルマートの決算を見るにあたり注目すべきはROE(自己資本利益率)です!
2006年度~2023年度の長期間にわたる、ウォルマートの平均ROEは約19%でした。一方で、同じ期間のS&P 500構成銘柄の全体的なROEの水準は15%未満でした。つまり、ウォルマートのROEの高さには相対的な優位性があったと言えます。そのため、ウォルマートは純利益の成長性には乏しい状態であったにもかかわらず、株価パフォーマンスでS&P 500を上回ることを実現してきたのです。
ウォルマートのROEの将来的な見通しをどのように把握できるでしょうか?デュポン分析を通じて解釈していくことができます。
ROEに影響を与える主な要因は、純利益率、総資産回転率、財務レバレッジ(自己資本乗数)の3つです。ROE = 純利益率 x 総資産回転率 x 財務レバレッジ
1. 純利益率
純利益とは、企業が稼いだお金から諸経費をすべて差し引きして最後に残る利益のことです。したがって、純利益率は企業の最終的な収益性を表します。純利益率がプラスであることはROEについて議論するための前提条件です。
チェーン小売業界では、純利益率は一般的に低く、業界のリーダーであるウォルマートも例外ではありません。過去10年前後、ウォルマートの純利益率は4%未満にとどまっています。全体的に下降傾向にあり、2006年度の3.56%から2023年度には2%未満に低下しました。これは、同じ期間に売上が倍増したにもかかわらず、ウォルマートの純利益があまり増加していない主な理由でもあります。(運営コストが利益を圧迫)
ウォルマートの純利益率が低下している理由を掘り下げて考えましょう。過去の決算のデータを見ると、ウォルマートの粗利益率は24%前後で変動していますが、売上高に対する営業費の割合は着実に増加しており、2023年度には20.8%に達し、2006年度から約3%上昇しています。ウォルマートの純利益率のベースが既に非常に低いため、わずかな営業費の増加でも純利益率に大きな影響を与えることが考えられます。
良いニュースは、2017年度以降の状況から判断すると、ウォルマートの営業費用売上比率は基本的に安定していることだ。 最新の決算報告では、営業費用売上比率が引き続き安定しているかどうか、そしてそれによる純利益率への影響を引き続き観察する必要があります。
2. 総資産回転率
総資産回転率は、1会計年度の総収益を平均総資産で割った比率であり、企業の運営能力を表します。ウォルマートの場合、売上を増やしても利益が増えるというビジネスモデルではありません。そのうえ、非常に低い純利益率という背景がありながら高いROEを維持することは、経営陣に強力な運営能力を示す必要がある多大なプレッシャーをかけることは明白でしょう。
米国株式市場に上場している全企業の中で、平均の総資産回転率は0.7倍未満です。しかし、チェーン小売業界では、この指標は一般的に高くなっています。moomooの財務データによると、ウォルマートの総資産回転率は2.4倍前後にとどまり、チェーン小売業界の平均レベルに過ぎず、コストコの3.7倍に遠く及びません。
運営能力を測るもう1つの指標は、在庫回転率です。比較的安定した総資産回転率とは異なり、ウォルマートの在庫回転率はより大きく変動しています。
在庫回転率は、在庫販売の効率を測る非常に重要な指標です。この指標が大幅に低下すると、企業が販売圧力に直面していることを示す可能性があり、株価に短期的な影響をもたらすことがあります。同時に、在庫は総資産の一部であるため、在庫回転率の低下は総資産回転率の低下にもつながる可能性があります。
ウォルマートの2022年Q1を例に挙げると、在庫回転率は約8倍で、前年同期比で16.5%大幅に低下し、総資産回転率の低下も引き起こしました。市場はそのため販売見通しについて懸念し、決算発表後、株価は3日間でほぼ20%下落しました。
3. 財務レバレッジ(自己資本乗数)
ROEに影響を与える3つの要因のうち、ウォルマートの純利益率が下降傾向にあり、ROEにとって足を引っ張る要因と考えられます。一方、総資産回転率は比較的安定しており、中立的な要因となっています。したがって、ウォルマートが高いROEを維持するための頼みの綱は、財務レバレッジであるということになり、実際にそれが当てはまります。
2006年から2023年までの期間において、ウォルマートの財務レバレッジは2.52倍から3.05倍に増加し、純利益率の低下にもかかわらず、まだなお良好なROEレベルを維持することができていました。
ウォルマートはどのようにして財務レバレッジを増やしたのでしょうか?財務レバレッジの公式である平均総資産÷平均純資産からわかるように、純資産を減らすことが重要な策の1つです。
ウォルマートが純資産を減らすために行った主な方法は、自社株買いと配当金の支払いです。これはウォルマートのみならず、成熟した米国企業でしばしば行われる手法です。自社株買いや配当支払いにより、企業はROEを増やすだけでなく、株主に還元し、1株あたりの収益を改善し、市場に流動性をもたらすことができるのです。これはまさに、企業と株主がWin-Winの状況と言えます。
2006年から2023年までの期間における、ウォルマートの累計純利益は2430.7億ドルであり、累計自社株買いと配当支払いは2095.2億ドルで、この期間の累積利益の86%を占めています。
ここで注意すべきは、ウォルマートの自社株買いと配当支払いの比率や平均ROEの水準には、2015年度を境に大きな変化があったという点です。2006年度から2015年度までの期間で、自社株買いと配当支払いの純利益比率の平均は0.71であり、平均ROEは21.4%でした。一方、2016年度から2023年度までの期間で、自社株買いと配当支払いの比率の平均は1.15に上昇し、平均ROEは15.7%に低下しています。
すなわち、ウォルマートは自社株買いと配当支払いを増やすことで高いROEを維持しようとしましたが、純利益率の急速な低下により、ROEレベルの低下を避けられなかったのです。
自社株買いと配当支払いは短期的には純利益を上回る水準で維持されることがありますが、長期的には持続することはできません。したがって、もしウォルマートの純利益率が将来にわたって引き続き低下した場合、ROEの水準は引き続き低下する可能性があり、それは長期的な株価に対する圧力を生み出す可能性があります。
実際、ウォルマートが高いROE水準を維持していた2006年度から2015年度の期間で、株価は倍になり、S&P500の69%上回るアウトパフォーマンスを示すことにかけては成功を収めたと言えます。しかし、ROE水準の低下した2016年度から2023年度の期間には、ウォルマートの株価はS&P500とほぼ同じ水準で推移しました。
まとめ
ウォルマートは、鈍化傾向にある純利益成長にもかかわらず高いROE水準を維持してきました。そのため株価の好パフォーマンスを維持することができました。
ROEに影響を与える要因は、純利益率、総資産回転率、財務レバレッジの3つがあります。
ウォルマートの運営費用の上昇による純利益率の持続的な低下は、同社のROEパフォーマンスを引きずっている要因となっています。
ウォルマートの在庫回転率の変化は、短期的な株価に影響を与えることがあり、また総資産回転率にも影響を及ぼすことがあります。しかし、ウォルマートの総資産回転率は過去に比較的安定したパフォーマンスを示しています。
ウォルマートの高い自社株買いと配当支払いは、同社の財務レバレッジの増加を推進していますが、純利益率の低下がROEに与えるネガティブな影響を相殺することができない可能性があります。ウォルマートの決算をみるにあたって重要なのはROEであることが、お分かりになりましたか?チャーリー・マンガー氏はかつて、長期的には企業のROEに一致した株式収益があると述べました。決算後の答え合わせが楽しみですね!意見や分析があれば、ぜひコミュニティで共有してくださいね。
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