アップルの新型iPhoneは中国市場で稼ぐ力に翳り

「最高かつ最も有能なiPhoneだ！」今月12日、新型スマートフォン「iPhone15」の発表会にて $アップル(AAPL.US)$ CEOのクック氏が同社最新機種の出来栄えを巡り、冒頭のひと言を発した。高倍率光学ズームカメラが新たに採用されたほか、充電ボードは「USB-C端子」に全面移行、チタンを使い外装の軽量化を目指したなど、全ての新機能は事前予想の範囲内にとどまった。15が799ドル、Plusが899ドル、Proが999ドルと価格が据え置かれる一方で、Pro Maxは最低容量128ギガバイト（GB）から256GBに引き上げて、価格も100ドル上げて1,199ドルとした。同社は販売台数よりも高付加価値を訴える戦略を追求してきた。米調査会社IDCの調べによると、2022年同社スマホの平均販売価格は996ドルで、17年より3割も高いという。米年末商戦を占う新型iPhoneの発表会はサプライズ感が乏しく、同社株価は前日比小幅安に転じた。

IDC最新の調べでは、2023年世界スマホの出荷台数が2022年比4.7%減の11億5000万台と、過去10年間で最低水準に落ち込む見通しを明らかにした。IDCはこれまで23年の出荷台数を22年比3.2%減としていた予想を下方修正した。24年以降は世界スマホ需要の回復が見込まれるものの、向こう5年間は微増にとどまり、世界スマホ市場は飽和状態に突入した。

そうしたなか、米中対立の激化に伴い、中国政府は官公庁職員に対し、 iPhoneの使用を禁じるなど、アップルは「中華圏」のシェア維持に腐心している。2023年2Q売上高817億9700万ドルのうち、中国や台湾、香港を含む「中華圏」は約2割と、米国に次ぐ最重要市場である。中国調査会社CINNO Researchによると、スマホの普及一巡や買い替えサイクルの長期化を背景に、2023年の中国のスマホ販売台数は、前年比2%減の2億5,000万台になる見通し。中国市場全体の縮小を受け、中国でのiPhone販売台数は前年比2％減の4,550万台程度と見込まれている。最新機種 iPhone15シリーズの販売実績はさらに低迷し、2023年の販売台数は1000万台前後となる見込みで、2022年同じ時期に発売されたiPhone14シリーズと比較すると22％減、約290万台の減少となる見通しだ。

米中対立にとどまることなく、宿敵ファーウェイの復活もアップルの中国市場シェアを脅かしている。中国通信機器メーカー最大手ファーウェイが23年8月末に発売した新型スマホシリーズ（Mate 60/Pro/Pro＋）には、自社開発した5Gに対応する回路線幅7nmの半導体を搭載した。2018年製のiPhoneに相当する速さを有するMate 60 Pro（6,999元、約950ドル）は、4nmのiPhone15と比べると隔たりはあるものの、通信速度も5Gと同レベルであることから、十分なパフォーマンスを発揮できるとみられる。現地証券によると、 Mate 60 Proは発売から1年以内に1500万台に上り、ファーウェイの新型スマホ効果が波及して、ファーウェイのスマホは全体で前年比65％増の3,800万台になる予想が示された。

UBSは今月25日、 iPhone15に決定打が欠くとして、 iPhone15シリーズの出荷予想台数を8000万〜9000万台から7800万台に引き下げた。「ハイエンド市場では、来年もアップルによる独占が続くが、600〜800ドルの価格帯では、ファーウェイや他の中国メーカーとの競争により、アップルのシェア低下は続く可能性がある」と、ファーウェイなどとの競争により、アップルのシェア低下の可能性に言及した。

また、高いインフレで節約志向の富裕層顧客がウォルマートで買い物をするという現象が示したように、高所得層が多い米小売業は減収傾向を辿っている。iPhoneも新機種デビューの都度、富裕層向けのハイエンド製品に化しつつある。アップルを巡る内外からの向こう風は強まることは確かに見える。