エーザイやキリンＨＤがＥＳＧ効果を金額表示　ＩＲや経営戦略への活用でＥＳＧ投資を脱“オワコン”化

投資家からの人気を集めていた「ＥＳＧ投資」が転機を迎えている。ブルームバーグは26日付で、ヘッジファンドがＥＳＧ銘柄を空売りの照準に定め始めたと報じたほか、ＥＳＧを謳ったファンドが急速に数を減らしているとの報道もされている。ＥＳＧ投資が敬遠されつつある大きな理由は、ＥＳＧ活動の実態や効果が見えにくいことで、「見せかけＥＳＧ」を排除しにくいことも投資家からの不信感を招いている。そんな中、エーザイやキリンＨＤなどは、ＥＳＧ活動の効果を具体的な金額に換算することで、投資家へのアピールや経営戦略の遂行に活かしている。

26日付の日本経済新聞は、 $ヤマハ発動機 (7272.JP)$が途上国で手掛ける小型浄水システム設置事業の社会的価値を約1500万ドル（約22億円）と開示したことを紹介した。また、 $エーザイ (4523.JP)$は無償提供する熱帯病治療薬の社会的価値を年平均1600億円と算出しているほか、厚生労働省が25日に承認した認知症治療薬「レカネマブ」の米国での価格設定は、社会的価値を手掛かりにしているとも報じた。ちなみに、同社はレカネマブの米国での社会的インパクトの目標額を、2025年度に約2600億円、30年度に約1.8兆円としている。

エーザイは製品のESG効果だけでなく、非財務資本を会計に反映させたという「ＥＳＧ ＥＢＩＴ」も公表している。同社は人件費と研究開発費は「社会善」を実現する「無形資産への投資」と見なし、営業利益から人件費や研究開発費を差し引かない「本源的利益であるＥＳＧ　ＥＢＩＴを高めることが中長期的な企業価値の創出につながる」（Value Creation Report2023）と説明している。これらに加えて同社は、2020年には、賃金の質や従業員の機会、ダイバーシティ、地域社会への貢献を加減算した「従業員インパクト会計」も試算。269億円を「正の社会的インパクト創出」額と算出した。

$積水化学工業 (4204.JP)$は、気候変動に対する取り組みに関する効果を数値化している。同社は、気候変動に対する取り組みは、「株主のみならず、顧客、取引先、従業員、地域社会などマルチステークホルダーに影響を与えている」（TCFD Report2023）として、ステークホルダー全体への影響額を算出している。計算式は、次の通り。
ステークホルダー包括利益＝(当期利益＋気候変動取り組みを実施する従業員の雇用創出額＋製品による温室効果ガス排出量の削減貢献がもたらす経済価値＋製品が気候変動課題以外の環境側面にもたらす経済価値)－(事業活動による温室効果ガス排出が及ぼす経済損失＋事業活動が気候変動課題以外の環境側面に及ぼす経済損失)
同社はこのステークホルダー包括利益を、当期利益で割った数値（倍数）を公表している。2022年度は3倍弱となっており、当期利益692億6300万円で換算すると、ステークホルダー包括利益は約2000億円との計算になる。

$キリンホールディングス (2503.JP)$も、気候変動や自然資本に対する取り組みに関する数値を公表している。「Environmental Report2023」には、気候変動や自然資本のリスクによる財務インパクトに加え、気候変動や自然資本に関する社会課題を解決する財務インパクトを、事業機会という位置付けで算出。例えばフードウェイスト削減目標が達成した場合の費用削減効果を約9億円、ベトナムコーヒー園での化学肥料や農薬削減による効果を1.1億円などと算出している。

出所：ブルームバーグ、日本経済新聞