原油先高観でINPEXなど石油関連株が年初来高値更新、「悪い円安」再来の懸念も

原油価格の上昇と先高観が、日本の株式市場にも影響している。短期的には石油関連銘柄の株価を押し上げているが、長期的には物価高の印象が強い「悪い円安」の再来を招く懸念もありそうだ。

1.発端はサウジの減産延長
原油価格上昇の発端は、サウジアラビアが5日に、現行の日量100万バレルの原油の自主減産を12月まで3カ月延長すると表明し、ロシアも年末にかけて輸出量を30万バレル減らすと同調したことだ。これを受けてОＰＥＣは12日、世界の石油市場は10－12月期に日量約300万バレルの供給不足になる見通しを公表。13日には国際エネルギー機関（ＩＥＡ）が「大幅な供給不足が生じ、価格変動が再び大きくなる恐れがある」と警告し、ＷＴＩ先物は約10カ月ぶりとなる一時89.64ドルを付けた。

2.足元では石油関連株が上昇
原油価格の上昇は、足元では石油関連銘柄の買いにつながっている。 $石油資源開発(1662.JP)$と $INPEX(1605.JP)$は13日に、 $出光興産(5019.JP)$、 $富士石油(5017.JP)$、 $日揮ホールディングス(1963.JP)$、 $ENEOSホールディングス(5020.JP)$は14日に、それぞれ年初来高値を付けた。
これに対し、原油価格の上昇がコスト増につながる $ヤマトホールディングス(9064.JP)$や $SGホールディングス(9143.JP)$といった陸運株は5日終値と比べてそれぞれ7.84％、3.94％値を下げている。

3.長期的には「悪い円安」再来の懸念も
原油価格の先高観は、マクロの観点では日米ともに長期的な悪材料になると指摘されている。
13日付のブルームバーグは、「原油価格の上昇が米国経済のソフトランディングのストーリーに一石を投じている」との、ＪＰモルガン・アセット・マネジメントのストラテジストのデービッド・レボビッツ氏のコメントを掲載した。同氏は、原油相場の動向が、「成長ストーリーとインフレストーリーの間に緊張関係が生まれている。（ＦＲＢの仕事は）この（原油相場の）動きによって限りなく難しくなった」と指摘した。

日本経済にとっても、原油価格の上昇は悪材料となる。貿易収支の悪化につながり、米国の金利高止まりに対する懸念と相まって、円安圧力が強まることが想定される。
6日の外国為替市場は、原油価格上昇の影響力の強さを示すものとなった。神田真人財務官が円安をけん制する発言をしたにもかかわらず、原油高によって円買いは一時的な動きにとどまった。同日付の日本経済新聞は、「原油価格が落ち着くまでは貿易赤字が進みやすく、ドル買い圧力として意識される」（あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジスト）、「1ドル＝150円を超えて円安・ドル高が進むリスクはくすぶっている」（UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメントの青木大樹最高投資責任者）とのコメントを紹介した。

原油高を伴った円安は、物価上昇のインパクトが強くなり、「悪い円安」と受け止められやすい。読売新聞が6日に行った（掲載は9日）植田和男日銀総裁のインタビューでの発言の真意が、「早期の利上げの可能性が高まったことを示すものではないと考えるが、円安のけん制を多少意識したものであった可能性はある」（元日銀審議委員で野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏）とみられるなど、円安のけん制は政府や日銀の大きな課題となっている。「植田総裁の就任、ＹＣＣ（イールドカーブコントロール）の柔軟化の2つによって、政府と日本銀行がより協力しながら円安をけん制することができるようになった」（同）中で、原油価格の上昇による「悪い円安」が進めば、みたび日銀を動かす可能性もゼロとはいえない。

出所：ブルームバーグ、日本経済新聞、野村総合研究所コラム「木内登英のGlobal Economy&Policy Insight」、moomoo