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米長期金利急伸の真相は、高水準の政策金利が長期間に亙り据え置かれることに市場が観念した表れ

米長期金利急伸の引き金となった米8月雇用動態調査 
10/3の米国債市場で10年債利回りや30年債利回りが揃って急騰した(債券価格下落)。米長期金利の指標となる10年債利回りは一時4.806%に、30年債利回りは一時4.950%に達し、いずれも2007年以来16年ぶりの高水準を付けた。米長期金利急伸のきっかけは 10/3に発表された米8⽉JOLTS(雇用動態調査) 求⼈件数の予想外の急増だった。8月JOLTS求⼈件数は、市場予想の880万件に対し、69万件増の961万件となり、約2年ぶりの高い増加幅を見せた。7月の求人件数は882.7万件から892万件に上方修正された。逼迫した米雇用情勢が示されたとして、11月会合にてFRBによる追加利上げへの警戒が長期金利急伸に繋がった格好だ。8月JOLTSの発表を受け、 FF金利先物市場では、11月会合で金利据え置きの確率が72.8%から67.8%に下落したに対し、25bpの利上げ確率は27.2%から32.4%に上昇した。       
米30年債利回りの長期推移
米30年債利回りの長期推移
米労働の需給タイト感は明らかに緩和へ 
今年1月のJOLTS求人件数は1082万件に対し、1月雇用統計での失業者数は569万人となり、有効求人倍率は1.9倍だった。8月JOLTS求人件数は対失業者数(640万人)の有効求人倍率は1.50倍にとどまり、コロナ禍前の1.2倍を上回ったものの、年初時点の1.9倍から見ると下落傾向が鮮明だ。また、米雇用統計もタイトな米労働市場が緩和しつつあることを示している。米8月雇用統計で就業者数が前月比18.7万人増と市場予想(17.0万人増)を上回ったものの、直近12か月間の平均値である27.1万人を大きく下回った。注目されるのは、6月の数値が18万5,000人増から10万5,000人増へ、7月の数値が18万7,000人増から15万7,000人増へ、それぞれ大きく下方修正されたことだ。6月と7月の就業者数の下方改定を受け、直近3か月間の移動平均は15万人にとどまった。米労働市場の軟化傾向は JOLTSや米雇用統計から読み取れることが明らかだった。 
雇用統計調整値:初回発表(青)、1次改訂(赤)、2次改訂(橙)、初回発表と2次改訂の差(緑)
雇用統計調整値:初回発表(青)、1次改訂(赤)、2次改訂(橙)、初回発表と2次改訂の差(緑)
米長期金利急伸は、マーケットがFRBによる徹底した金融引き締め姿勢を受け入れた証
FRBによる「徹底した金融引き締め姿勢」に対し、急進的な利上げでは米経済が耐えられないとの考えを元に、市場は「早期利下げになる」と常に逆の見立てを立ててきた。今年年初に発表された22年12月に開かれた12月会合の議事要旨からもFRBとマーケットとの行き違いや考え違いが表面化していた。FRBは議事録要旨の中で「2023年の利下げを予想したFOMCメンバーはいない」としたにも関わらず、マーケットでは、FRBが今年中に利上げペースが減速すると共に、今年年内にも利下げに舵切るとのメインシナリオが想定された。今年の5月会合で3会合連続の0.25%利上げが決定されたなか、市場関係者の多くは5月中旬時点でも、FRBによる利上げサイクルは最終盤を迎えたと受け止められた。市場のメインシナリオでは4ヶ月後の9月、早ければ2ヶ月後の7月にも利下げが始まるとのことだった。 鬩ぎ合ってきたFRBの強気と市場の弱気は今年の9月会合を以て終止符が打たれた。度重なる追加利上げの実施にも関わらず、米経済が一向に衰えを見せないことから、FRBは9月会合で公表した経済見通し(SEP)には、24年と25年の政策金利見通し(中央値)がそれぞれ0.5%ポイント上方修正され、24年の利下げペース(4回⇒2回)が前回よりスローダウンする方針が示された。FRBの方針が市場に浸透した結果は米長期金利の急伸だった。 
今年5月中旬時点のマーケットによる米政策金利予想
今年5月中旬時点のマーケットによる米政策金利予想
 米長期金利の急伸は結果的に米景気先行きに影を落とすことになりそうだ。米企業もマーケット関係者と同様、 FRBによる早期利下げを念頭に短期の借り換えを繰り返してきた。 S&Pの格付け対象企業では、24~26年に計7.3兆ドルが返済・償還期限を迎える。そのうち24%は低格付け企業で、借り換えのリスクが高まるとみられる。ムーディーズは24年半ばにデフォルト率が10~15%まで上振れる「悲観シナリオ」も想定している。また、米企業の半数で人手不足の深刻さが続いてきたなか、米企業は人員削減には及び腰だった。高い金利での借り換えが迫られる米企業は容赦なき人員削減に走ることが必至とみられる。遠くない将来において、 足元の長期金利急伸は利下げの始まりだったと振り返る可能性もあろう。 
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