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アジア投資 Research Memo(5):日本とアジアにまたがる独立系の総合投資会社

Fisco ·  12/12 01:34

4. 中長期的な戦略評価

弊社でも、外部資金の活用によりファンドビジネスの強化を目指す方向性には合理性と蓋然性があると評価している。ファンドビジネスは自己資金を極力使わずに、ノウハウやネットワークといった無形資産をいかに安定した収益に変えることができるかが成否を決する知的資本型のビジネスであり、アップサイドは限られているものの、資本効率性や事業の拡張性にも優れていると言える。したがって、今後の収益構造の変化は同社に対する投資判断(株価バリュエーション)にも大きな影響を及ぼすイシューとして捉える必要がある。今回の事業方針の転換は、これまで取り組んできた財務基盤の強化やプロジェクト投資に一定の手応えをつかんできたことの証との見方もできるが、さらなる事業拡大に向けて閉塞感が漂っていたことを勘案すれば、新体制への移行や相次ぐ業務提携により新たなネットワークやノウハウがプラスされたことで大きな転機を迎える可能性がある。企業の様々な資金ニーズ(M&Aや事業再生などを含む)及び国内外の投資家からの運用ニーズの両面から見て、投資事業を取り巻く外部環境は総じて活況であると言えるため、新中期経営計画で掲げた事業ポートフォリオに基づき、いかに幅広く案件を掘り起こし、国内外の投資家ニーズとのマッチングを図るかがファンド組成に向けたカギとなるだろう。

■会社概要

1. 事業概要

日本アジア投資<8518>は、日本とアジアにまたがる独立系の総合投資会社として、PE投資のほか、再生可能エネルギーなどプロジェクト投資(実物資産投資)も手掛けている。豊富な投資経験とブランド、ネットワーク、人材、事業パートナーなどの事業基盤を生かしながら、革新的な技術やビジネスモデルを持ち、高い成長力を有するベンチャー企業及び中堅・中小企業等への投資や成長支援を通じて、日本とアジアの両地域における産業活性化や経済連携の拡大などに貢献してきた。

同社グループは、金融機関等の出資者からの出資及び同社グループの出資により組成される「投資事業組合(ファンド)」からの投資を中心に行っており、同社グループが管理運用等を行っているファンド運用残高は12,596百万円(7ファンド)となっている(2024年9月末時点)。

事業セグメントは投資事業の単一であるが、事業領域に応じて「投資開発事業」「投資運用事業」「ファンド・プラットフォーム事業」の3つの事業に区分される。

事業別の概要は以下のとおりである。

(1) 投資開発事業

ファンドの組成や融資により資金を調達して、設備を保有するSPC(特別目的会社)に投資を行い、設備を建設した後に設備を運営または売却する投資事業であるが、今後はファンドを通じた投資に切り替える。主な投資対象は、エネルギー(再生エネルギー発電所、蓄電所)、インフラ(物流施設)、ヘルスケア(障がい者グループホーム)等となっている。2024年9月末のAUMは168億円に上る。

(2) 投資運用事業

企業の発行する有価証券を対象とする投資事業である。同社の強みを生かしてファンドを組成し、上場株式・上場債券を対象としたバイアウト投資やPIPEsなどを行うほか、未上場企業へのベンチャー投資やバイアウト投資を行う。2024年9月末のAUMは112億円に上る。

(3) ファンド・プラッフォーム事業

子会社のJBSが提供する、ファンド運営のミドル・バック業務のサービス。JBSは同社グループが運営するファンドのバックオフィス部門として長年にわたり蓄積したスキルと経験をもとに、PEファンド等の運営企業に対して事務受託サービスを提供し、20年以上の実績を有している。2024年9月末のAUAは2,554億円に上る。

2. 沿革

同社の前身である日本アセアン投資(株)は、1981年7月に経済同友会を母体として設立された。日本とASEAN間の民間投資を促進することが設立の経緯である。1985年12月には、海外経済協力基金(OECF)の資本参加により、半官半民の体制となった(ただし、1989年10月にOECFによる保有株式は民間企業へ売却)。

1988年頃からは、当時の政府が公約した「貿易黒字の資金還流」の一翼を担う目的で、ASEAN各国に拠点を設立してASEANでの投資事業を開始した。1991年6月には、現在の日本アジア投資(株)に商号変更し、ASEANに限定していた投資対象地域を日本・中国台湾・韓国へ拡大した。その後も順調に業績を拡大すると、1996年9月に日本証券業協会に店頭売買銘柄として株式を登録した。2005年からは中国での投資事業に本格参入し、2007年12月には中国子会社を設立した。2008年6月に東京証券取引所市場第1部へ上場を果たした後、2012年には安定収益の拡大のため再生可能エネルギープロジェクトへの投資も開始した。その後、ヘルスケア(高齢者向け施設・障がい者グループホーム)、スマートアグリ(植物工場)、ディストリビューションセンター(物流施設)と、投資するプロジェクトの種類を多様化している。

2024年6月には社長交代とともに新体制へと移行した。

3. 企業特徴

(1) 収益モデル

同社の収益構造は、投資開発事業及び投資運用事業ともに、投資対象の違いはあるものの、外部資金を活用したファンドビジネスであるところは共通しており、同社グループが管理運用するAUMに対するAMフィーが安定収益源となっている。また、ファンド・プラットフォーム事業も安定収益を得られ、スケールメリットの追求が収益性向上につながる特徴を持つ。投資運用事業については、成功報酬(運用成績が一定水準を上回った場合に支払われる報酬)がアップサイドとして期待できるほか、投資開発事業及び投資運用事業ともにAUMの一定割合※を自社持分(GPコミット)として保有するため、その部分は資産売却時に一時的なキャピタルゲイン(あるいはロス)を生み出すことになる。なお、自社持分については資産クラスによってリスク・リターンの特性が決まるが、一般的には実物資産投資のように比較的キャッシュ・フローの安定した資産はミドルリスク・ミドルリターン、有価証券投資(特にベンチャー投資)はハイリスク・ハイリターンと言えるだろう。したがって、同社の収益構造はAUMの拡大による安定収益を軸としながら、一定割合においては成功報酬や自社持分によりアップサイドをねらえる重層的な収益構造と言えるだろう。

※ 投資開発事業のGPコミットはAUMの20%、投資運用事業はAUMの3.3%と同社では計画している。

(執筆:フィスコ客員アナリスト 柴田郁夫)

これらの内容は、情報提供及び投資家教育のためのものであり、いかなる個別株や投資方法を推奨するものではありません。 更に詳しい情報
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