株式会社デンソーは、優れた産業技術や製品開発を顕彰する第38回中日産業技術賞*1(中日新聞社主催、経済産業省後援)において、豊田中央研究所と共同で開発した「電動化自動車向け超低損失ダイオード一体型IGBT」が最高位の「経済産業大臣賞」を受賞しました。デンソーが最高位賞を受賞するのは、2022年の「リチウムイオン電池監視ICを小型化した高耐圧半導体素子」以来の3度目となります。
車両の電動化において、「三種の神器」と呼ばれる重要なコンポーネントの一つであるインバーターは、電力変換やモーター制御を担うだけではなく、電力の効率的な利用を可能にし、さまざまな電気機器の性能を向上させる重要な役割を持ちます。
このインバーターに搭載されているパワーカードは従来、IGBTとダイオードという機能の異なる2つの素子が用いられて構成されていました。IGBTによる高速スイッチングとダイオードによる整流を組み合わせることで、電池の直流とモーターを動かす交流との相互変換が可能となります。ここで、機能が異なる素子を一体化する場合、それぞれの素子の個別最適化が難しく、一体化と素子の個別最適による性能向上の両立が課題となっていました。
今回受賞した「ダイオード一体型IGBT」は、豊田中央研究所を中心とするトヨタグループが独自に開発したSMA構造*2を採用しています。この革新的な構造により、IGBTとダイオードそれぞれの素子の最適化とチップの一体化に成功しました。この結果、低損失とユニットの小型化の両立を実現しています。
また、電動車の本格的な普及を見据え、デンソーの量産技術により、生産工程や時間の効率化を実現し、複数の生産工場への展開が容易になりました。災害の多い日本においては、生産拠点の分散が事業継続性の観点から極めて重要です。本開発は、広範なサプライチェーンを構築し、生産拠点の分散を実現しています。
本製品を搭載したユニットは2022年以降、累計100万台以上の電動車に搭載されています。また、優れた構造と量産化の実現が評価され、パワー半導体で最も権威のある国際シンポジウムであるISPSDで3部門中2部門を受賞*3しました。
デンソーは、地球環境の保全とクリーンなモビリティ社会の実現を目指して、今後もさまざまな技術開発や基礎研究に取り組んでいきます。
*1中日産業技術賞:1986年に創設された中日産業技術賞は、機械・金属、電子・情報、新素材・バイオテクノロジー・医療などの分野における最近の技術・製品の開発に対して与えられる顕彰。
*2 SMA(Schottky and Multi-layered Anode):パワー半導体のダイオード低損失化技術。電流が一方向に流れる性質を持つ「ショットキー障壁」と、複数の層で構成された「多層アノード」を組み合わせている。
*3 IEEE ISPSD2023 2部門受賞:(株)豊田中央研究所・ (株)ミライズテクノロジーズ・デンソーの3社の共著で、ISPSD2023(香港)へ論文を2件投稿し、「Novel Diode Structure for Ultra-Low-Loss RC-IGBTs」が最優秀論文賞を、「Design of 1200-V RC-IGBT for TOYOTA’s 5th generation HEV/PHEV systems」が最優秀ポスター賞をそれぞれ受賞。最優秀論文賞では新構造であるRC-IGBTの要素技術が、最優秀ポスター賞ではそのRC-IGBTの実車搭載・量産化を実現したことがそれぞれ評価された。
(前列左から)中部経済産業局 寺村 英信局長、デンソー 経営役員・CTO 加藤 良文、デンソー 上席執行幹部・先進デバイス事業グループ長 黒川 英一、中日新聞社 大島 宇一郎社長 (後列)受賞者一同