■Laboro.AI<5586>の事業概要
1. 沿革
同社は、2016年4月に現在の代表取締役である椎橋徹夫氏と同藤原弘将氏を中心に人工知能技術を用いたソリューション開発、人工知能の活用に関するコンサルティングを目的とする会社として設立された。以降、多くの顧客企業とAIを活用した事業変革/新規製品・サービス創出を協働してきた。同社が特に注力している領域は「バリューアップ型AIテーマ市場」と呼ばれる、企業のコスト削減ではなく、新商品/サービスの創出や事業変革等のトップライン向上に向けてAI活用を行う領域である。こうした顧客企業の競争優位性の源泉となる成長投資領域において、顧客の保有するデータを活用したAIを開発・実装する上では、業務委託を超えたより深い関係性を構築することも必要となる。このため、(株)博報堂、(株)SCREENホールディングスをはじめとする主要な顧客と資本提携等を締結し、より深く長期的な関係性を構築している。
株式については、2023年7月に東京証券取引所グロース市場に上場した。
また、2024年7月には戦略・DXに関するコンサルティング企業であるグロービング(株)と合弁契約を締結し、AI-X(AIを活用したトランスフォーメーション)に関するソリューションを提供するX-AI.Labo(株)への出資を実施した。
2. 事業内容
同社の主力事業は、オーダーメイドによるAIソリューション「カスタムAI」の開発・提供である。すなわち、顧客の経営課題や戦略を踏まえ、それぞれの顧客に最適な「カスタムAI」を開発し提供する。このように、同社の事業は「カスタムAI」の開発・提供という単一事業であることから、「セグメント別情報」は開示されていないが、代わりに下記に述べるような顧客別、売上規模別などの情報が開示されている。
(1) 提供サービス:「カスタムAI」
AIとは言うまでもなく「Artificial Intelligence」(人工知能)の略で、AI自らがデータの特徴を学習して「言語や数値の解析や予測、推論などの知的行動を人間に代わってコンピュータに行わせる技術」のことである。
顧客の経営課題や戦略に最適化された同社は「カスタムAI」の開発・提供を行うのが主力事業である。より具体的には、個別企業の戦略や課題、要望などに合わせたソリューションデザイン(AIソリューション設計とAI導入を通した事業変革のためのコンサルティング)とオーダーメイドAI開発(顧客企業固有の成長戦略や事業課題に合わせたAI開発)を通じて、顧客企業のAIイノベーションを共創することが主力事業である。このような同社の事業を要約すると下図のようになる。
上記のような事業内容から、同社には「ソリューションデザイナ」(SD)とAIモデル・システム開発を担うエンジニア(機械学習エンジニア)の二つの専門人材のチームが存在する。ソリューションデザイナは、ビジネス視点のAI導入・活用支援などを行いプロジェクト全体をまとめ、顧客に提案する立場でありAIの知見と事業に対するコンサル的知見が要求される。一方で機械学習エンジニアは、実際に様々なAI関連の技術知見を活かしてAIモデルおよびAIシステムの開発を実施する。
(2) 提供形態
基本的に同社では、バリュー・マイニング(VM)とバリュー・ディストリビューション(VD)という二つの形態でサービスを提供している。VMとは、先例のない新たなテーマに挑むプロジェクトを受注・推進する取組みであり、VDはVMで蓄積したノウハウ・技術を広く応用展開するプロジェクトを受注・推進する取組みである。
VMを含む各プロジェクトの成果物については、基本的に知的財産権として顧客企業に属する。一方で、課題に対する技術的なアプローチ等、汎用的に活用できる部分もあり、同社はこれらを活かして技術的基盤や営業資料として集約/汎用化を行い、他の産業/企業等への面展開を行うVDを推進している。したがって長期的な視点からは、同社の技術・営業的な資産を増やしていく観点ではVMの取組みが、蓄積した知見を活用して効率的に成長を行う上ではVDの取組みが必要であり、VM/VDそれぞれがバランスよく伸長していくことが重要である。
(3) 事業モデルとKPI
事業モデルとしては、顧客の経営課題や戦略に合わせたオーダーメイドのAIを開発することなので、広義では「システム開発の受託」といえる。すなわち、案件ごとに投入する技術者のレベル、工数などを計算して顧客に対価を請求する事業モデルである。
このような事業モデルから、「顧客数」が重要なのはいうまでもないが、単純に顧客数だけを見るのはあまり意味がないだろう。何故なら、同社の場合、顧客あたりの年間売上高は数百万円から1億円超と幅広く、さらに案件が数年間継続する顧客もあれば、単年度で終了する顧客もある。したがって、重要な指標(KPI)としては、「新規顧客数」と「新規顧客売上高」、「既存顧客の売上高成長率」が挙げられる。
(執筆:フィスコ客員アナリスト 寺島 昇)