【記事】人気銘柄の決算書読み方
任天堂の決算報告書の読み方のコツは? ゲームのヒットと為替変動がポイント!
任天堂の決算報告書の読み方のコツは?
大好評の決算の解説シリーズ。
今回は任天堂(7974)です。同社は明治時代に京都市で花札やトランプカードの製造販売を開始し、現在はゲーム専用機や携帯ゲームの開発販売を手掛けている、一般消費者になじみ深い企業です。
2017年に発売され、大ヒットしたゲーム専用機「ニンテンドースイッチ」は今年3月に8年目を迎えました。21年3月期を頂点に販売台数は減少しているものの一定規模を維持しており、年間のプレイユーザーは1億2,200万人に達しました。
さっそく、決算を読み解くポイントを確認しましょう。
1.ゲーム事業のみの単一セグメント企業
会社の決算分析では、収益を生み出す割合が最も高いビジネスに重点を置く必要があります。
任天堂の場合は、ゲーム関連事業のみの単一セグメントであり、売上のほぼすべてをゲーム専用機とソフトウエア販売が占めています。このため、ゲームのヒットの有無に著しく依存したビジネスといえるでしょう。
ポイント①ゲーム専用機とソフトウエアに依存も財務基盤はしっかり
任天堂のカテゴリー別売上高では、9割以上を「ゲーム専用機売上高(ソフトウエア含む)」が占め、映像コンテンツなどの「モバイル・IP関連収入等」は5%程度となっています。
任天堂の業績・財務情報のページから主力専用機であるニンテンドースイッチの販売数量推移を見てみましょう。1000万台以上の販売を維持しているものの、22年3月期以降は段階的に販売数量が減ってきていることが分かります。
また、ゲームビジネスの特徴について考えてみましょう。生活必需品ではなく、娯楽の中の一分野であり、人々の嗜好の変化に著しく左右される厳しい事業です。デバイス技術の早い変化や、ヒットの有無、ゲーム愛好家の嗜好変化などで売上の変動が激しく、読みにくいビジネスでもあります。ゲーム機のライフサイクルは比較的短く、年末年始のクリスマス、お正月での売り上げが偏重する季節性が強いため、過剰な在庫を抱えるリスクもあります。一方、大きなヒットがあると、業績は大きく跳ね上がります。コロナ禍では、巣ごもり需要からソフト「あつまれ どうぶつの森」が記録的なヒットとなりました。
ヒット製品の有無で業績は大きく浮き沈みしてきたことは、以下のグラフでお分かりいただけます。
またゲームビジネスでは、業績の大きな変動リスクがあるほか、ゲーム開発に年単位での時間がかかる上、多額の開発費や宣伝費が必要です。このため、多くのゲーム企業は多額の現金を保有し、あまり借金を抱えないように経営をしています。任天堂も多くのキャッシュを持っており、借金などではない自社資産の比率である自己資本比率は82.6%(24年3月期)に達します。また、総資産のうち、流動資産は8割程度もあり、事業継続の安全性は極めて高く強固な財務基盤を維持しています。24年3月期の財務省表では、「現金及び預金」を1兆5000億円近く持っていることが確認できます。
ポイント②海外売上比率が高く、為替影響が大きい
任天堂の海外売上高比率は約8割に上ります。下のグラフの通り、地域別では米大陸や欧州での売り上げがとても大きいです。このため、対ドルやユーロでの為替影響を非常に強く受けます。
業績予想をする際の想定為替レートは、足元の為替より円高想定の場合が多く、期末での為替差益が期待されます。為替差益がどの程度生じるか、業績予想をどの程度上振れするか下振れするか見通すためにも会社が予想している為替レートも確認すべきポイントとなります。
2.ニンテンドースイッチの後継機は?
8年目となったニンテンドースイッチは、累計出荷が1億4千万台超の歴史的なヒット機です。ゲーム機としては、ソニーグループの「プレイステーション2」、任天堂の「ニンテンドーDS」に次ぐ規模となります。スイッチの後継機が待たれていますが、任天堂は後継機に関する情報を25年3月までに発表する方針を公表しています。
日本経済新聞の2月の記事によると、後継機はスイッチ同様に据え置き型と携帯型の両方の特徴を備えたゲーム機となるようです。また、画面はスイッチ(標準モデルは6.2インチ)を超える大画面を採用し、より高精細な画質のゲームに対応できると予想しています。
サプライヤーも注目されます。任天堂は、自社で工場を持たず、ゲーム専用機や周辺機器等の主要製品の生産を外部の生産パートナーに委託する「ファブレス」型の生産体制をとっています。このため、有形固定資産の割合が少ないという特徴があります。リスクとしては、グループ外の調達先のトラブルにより製品製造に支障が生じる可能性があります。17年3月発売のスイッチは、初期出荷量が需要に追い付かず、品薄が続き、転売も広く行われました。主なサプライヤーとしては、ホシデン、ミネベアミツミ、メガチップス、丸文、ローム、米エヌビディアなどが挙げられます。精密に画像が作りこまれた対応したゲーム機をリリースするとすれば、エヌビディアのAIグラフィックス技術「DLSS(ディープラーニングスーパーサンプリング)」が必要となり、同技術が内蔵されるかどうかも注目されています。
3.同業・競合企業は?
日本経済新聞によると、世界のゲーム市場は25年には2113億ドル(約32兆円)にまで市場拡大するとみられています。任天堂の同業・競合企業としては、米マイクロソフト、ソニーグループ、テンセントホールディングス、ネクソン、バンダイナムコ、コナミ、スクエアエニックス、カプコン、ディーエヌエー、コーエーテクモホールディングスなどが挙げられます。
ポイント①ソニーグループとの比較
国内の大きな競合はソニーグループとなるでしょう。比較すると任天堂がゲーム事業のみに依存するのに対し、ソニーは音楽、金融、映画など複数の事業を持っています。また、任天堂が子供やファミリー層など幅広いユーザーを対象としているのに対し、ソニーは若年のコアなゲーマーのファンを多く獲得しています。ただ、マリオやポケットモンスターなど知名度の高い自社ゲームのキャラクターIP(知的財産)は、任天堂が数多く保有していると言えるでしょう。
ポイント②ゲームキャラクターに触れる人口の拡大
任天堂はゲーム以外にもゲームキャラクターIPに触れる人口を増やすため、テーマパークや映画、公式ショップなどを展開しています。ここ数年は特に力を入れています。具体的には、21年に大阪市のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)にオープンした「スーパー・ニンテンドー・ワールド」、23年4月に公開されたマリオの映画、「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」が人気を博しました。26年4月にはスーパーマリオの新たな映画を公開する予定です。人気ゲーム「ゼルダの伝説」の実写映画化も予定されており、こうした取り組みを加速させています。
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