中国、米エヌビディアの独禁法違反調査は賢い対抗措置

2024年12月11日午後 2:02 GMT+9

中国政府は米政府に報復するための賢い方法を見つけ出した。米半導体大手エヌビディアについて、独占禁止法違反の疑いで調査を開始したのだ。米国が中国に対する先端半導体関連の輸出規制を強化した直後とあって、動機は政治的なものだと考えられる。しかしエヌビディアが人工知能（ＡＩ）向け半導体市場を支配しているのは事実で、独禁法違反をめぐる懸念は無視できない。
調査開始のタイミングは偶然ではない。バイデン米政権は先週、半導体関連の新たな中国向け輸出規制を発表したばかりだった。これに対して中国は、半導体や赤外線技術、光ファイバーに使われるガリウムやゲルマニウム、アンチモンなど重要鉱物の米国向け輸出を禁止すると発表した。
　中国側はこれまでもメモリーチップ・メーカーのマイクロン・テクノロジーなど米企業を標的に対抗措置を講じてきた。しかし米国が２０２２年に中国にハイテク戦争を仕掛けて以来、エヌビディアは最大にして最も著名な標的となる。

これは賢明な選択だ。エヌビディアはマイクロソフトやメタ・プラットフォームズがＡＩモデルを訓練するのに用いる最先端の画像処理半導体（ＧＰＵ）の市場を支配している。１個３万ドルを超えることもあるＧＰＵは、エヌビディア製以外の選択肢が乏しい。しかも同社の粗利は７０％を超えているため、既に規制当局が目を光らせていた。
米司法省は、エヌビディアが顧客によるサプライヤーの切り替えを難しくしているのではないか、またエヌビディア製以外の製品も使用している顧客に懲罰的な措置を行っているのではないか、との観点から情報を収集している。これはブルームバーグが９月に情報筋の話として報じた。
ブルームバーグの別の報道によると、欧州連合（ＥＵ）はＧＰＵ市場で競争阻害の行為が行われている可能性について非公式に情報を集めている。

エヌビディアは既に、中国企業向けに最先端半導体を販売することを禁じられている。しかし検索エンジン大手の百度や、短編動画投稿アプリ「ＴｉｋＴｏｋ（ティックトック）」の親会社、字節跳動（バイトダンス）など中国ハイテク大手は今もエヌビディアのプロセッサを使用しており、エヌビディアの中国売上高は直近の会計年度に７８％も増えて１００億ドルを突破した。

確かに、エヌビディアの売上高全体に占める中国の割合は２０％に満たない。しかし同社にとってより大きなリスクは、中国政府による正式な調査をきっかけに、他の国々も行動を起こす可能性があることだ。
米半導体大手クアルコム(QCOM.O), opens new tabでそうしたことが起こった。中国が２０１５年、同社に独禁法違反で９億７５００億ドルの罰金を科した直後、韓国と米国、ＥＵの当局がそろって追随した。中国政府によるエヌビディアへの対抗措置は政治的動機によるものかもしれないが、世界中のハイテク企業と規制当局に余波を広げるだろう。
●背景となるニュース
＊中国の国家市場監督管理総局（ＳＡＭＲ）は９日、エヌビディアに対し、独占禁止法違反の疑いで調査を始めたと発表した。同社が２０２０年にイスラエルの同業メラノックステクノロジーズを買収した件についても、ＳＡＭＲの承認を得るとの約束に違反した可能性があると指摘した。
＊エヌビディアの広報担当者はBreakingviewsに対し、同社は「全ての地域で最良の製品を届け、事業を行っている全ての場所で約束を守る」ために奮闘していると表明。「規制当局が当社の事業について質問があるのなら、どんな質問にも喜んで答える」と述べた。